パリにあるとっておきミュゼをご案内します
by paris_musee
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アートな映画 Achille et la Tortue『アキレスと亀』
バタバタとしていて1月中旬からずっと更新できませんでした。
楽しみにしてくださった方、すみません。
余裕がないと「ミュゼのあるくらし」ができないのを、身をもって実感。
普段からミュゼにいけるような落ち着いた日々を送りたいものです。

さて、久しぶりの更新なのに、またまたミュゼの話でなくて申し訳ないのですが、ウォーミングアップと思ってご覧ください。

今回は映画の話です。
先日、春の映画感謝デー(printemps du cinéma)がありまして、大人の通常料金が10ユーロちょっとのところ、3日間のみ映画1本3,5ユーロという値段で観られるというのをやっていました。これも今年で11年目の試みなんだそうです。
フランスに来た当初は『ぴあ』みたいな雑誌を毎週買って、結構映画を観まくっていました。学生だと5ユーロくらいで観れたり、午前中だと安かったり、現代美術の展覧会と連動して関連作品がまとめて観られたり、もちろん日本ではなかなか観られない古くてマニアックな作品もたくさん観る機会があったりと、映画に関してフランスはとても恵まれていると思います。

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フランスではAchille et la Tortureというタイトル
今回3,5ユーロで観た映画は『アキレスと亀』です。そう、北野武監督の。
ヴェネツィア映画祭に出品された2008年公開の作品。

フランスでは現在、パリのカルティエ美術館で展覧会をやったり、ポンピドゥーセンターで彼の全映画作品を上映したり、この『アキレスと亀』の上映が始まったりと、北野武旋風が吹き荒れています。最近フランス文化省から芸術文化勲章をもらったのも関係しているのかもしれません。

日本の方から「北野映画のフランスでの評価はどうなの?」という質問をよく受けますが、映画にあまり詳しくないので正直よくわかりません。でも昔から日本文化好き=ちょっとインテリというような図式ができあがったフランスでは、北野武監督の作品もその「日本文化」のど真ん中といった感じです。乱暴な比較かもしれませんが、日本でのゴダール映画の評価と似ているでしょうか。つまり、普通の人はゴダール映画を観に行ったりしませんが、映画愛好家の人の間ではとりあえず観て評価を下さないといけないマストな作品、みたいな感じです。デート用の映画ではなくて、批評したり思考したりするための映画ですね。
私が行ったのは平日の夕方の回でしたが、いかにもこういう映画が好きそうな人がひとりで来たりしていました。カップルでもラブラブデートという感じではなくて、全体的に「映画を観に」来てる方が大半だったと思います。
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画家を支える妻役は樋口可南子さん。ええ??っていうくらいかなり支えまくってます
この作品は、売れない画家の切なくも愉快な生涯を描いているのですが(くわしくはこちらか本編をご覧ください)、画家の一生と20世紀美術史がリンクしていて興味深かったです。
美術なんかにまったく興味のない人の視点で、アート業界を皮肉ったりしているのもとても面白く、おそらくアートも好きであろうパリの観客たちはそのシニカルな描写に失笑していました。(フランス人は映画館でも大声で笑うので、反応が直にわかって面白いですよ)
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グラフィティアートのバスキアを真似して、夜中、近所の商店街のシャッターに勝手に絵を描いて怒られるふたり

監督扮する主人公「真知寿(マチス)」は、単純に絵だけを描いていたい、「画家」になりたいだけで、アートという手段で自分の思想などを表現しようとは思ってないんです。画家でありながら表現することが特にないので、何を描いていいのかわからない。なので、画商が言うことに翻弄されまくっています。「美術史を勉強した方がいい」と言われればピカソやカンディンスキーなどの巨匠の作品をマネしただけの絵を描いてしまうし(「マネでへたくそなので救いがない」と画商にボロクソ言われます)、「ちゃんと美術を勉強した方がいい」と言われれば素直に学校にも通う。画商が言うとおりの絵を描くだけなので、彼の作品にスタイルなんてありません。
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学校のアヴァンギャルドなアーティスト仲間たちとつくった作品。ここらへんの雰囲気は60年代のネオダダイズムオルガナイザーズの活動っぽいです
そこが、一度でもアートをやろうと思った人にとっては胸が痛いところだと思います。好きなだけでもダメだし、自己主張ばかりでもダメ、時代の雰囲気とオリジナリティのバランスをうまく取らなきゃいけないし、売れることも考えておかないと...。
例えば60年代の日本の現代美術界を見てみると、若いアーティストたちがとにかく新しいスタイルをつくろうと必死になって、たくさんのグループや主義が生まれてはすぐに廃れて行きました。とにかく新しいもの、目立つものを追って行った挙げ句、その流行はあっという間に終わって、スタイルのまねをしてるだけではアーティストとして生き残れなかった時代です。この「真知寿」はそういう流行の後を追ってマネしているだけなので、貧乏アーティストのままなんです。

また、辛辣なアドバイスをしている画商は、ダメ出しして批判しまくった作品をちゃっかり売って儲けていたりするんですが、「真知寿」はそんな腹黒い画商にも全然気づきません。絵が売れたことは知らされてもいないんじゃないでしょうか。(もっとも、スタイルがないので自分が昔描いた絵も忘れてしまってるかもしれませんが)
まぬけなほどにピュアであるところが逆に立派にアーティストの素質があると言えなくもないんですが、実際アーティストは霞を食べて生きているわけではないので、もう少しビジネス戦略もできないと有名にはなれないんですよね。
ちなみに、私もギャラリーで働いたことがありますが、実際はお客さんも観る目がある方ばかりですので「へたくそな絵を価値がわからない成金に売りつけて丸儲け」みたいなことはありません。美術にまったく興味のない人が思い込んでる間違ったイメージですよね。もしかしたらバブルの時などはあったのかもしれませんが...。
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献身的だった奥さんにも愛想を尽かされた彼は、ついに狂ってしまいます。これもアーティストのステレオタイプですよね
アートの業界をちょっとでも知っている人にはシニカルだし、知らない人には滑稽なほどのステレオタイプだし(日本人=スシ&ゲイシャくらいの!)、どちらの側でも楽しめる作品でした。さすがは「ビートたけし」なだけあって、「真知寿」が描く作品とそれをダメ出しする画商のやりとりはテンポがよくて、映画館は爆笑の渦になっていましたし、人が死ぬシーンでさえも唐突でドライでときにおもしろおかしくて、演歌の文化がわからないフランス人にとっても、軽妙洒脱でわかりやすいんだろうと思いました。

もし日本でもまだ上映されているようでしたら、是非是非ご覧ください。
美術が好きな方は「真知寿」の描いた作品がどの巨匠のマネなのかを考えながら観ると、もっと楽しめるかもしれません。印象派、モネ、スーラ、マチス、ピカソ、カンディンスキー、クレー、ミロ、デュシャン、ポロック、バスキア、アンディウォーホル、ネオダダイズムオルガナイザーズ、その他たくさんの20世紀美術の教科書的作品の「へたくそなまね」が出てきますよ。


アキレスと亀公式サイト 
写真はフランスの映画サイトallocineよりお借りしました。
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by paris_musee | 2010-03-22 00:00 | その他
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