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パリにあるとっておきミュゼをご案内します
by paris_musee
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さすがは本場、充実のフランス絵画 パート4 ルーヴル美術館 リシュリュウ翼+シュリー翼2e(3階)
皆様、夏休みはいかがおすごしでしょうか。
先週は勝手ながらお休みを頂きました。
今週もまたルーヴル美術館のフランス絵画の続きをお送りします。

さすがは本場、充実のフランス絵画 パート4 ルーヴル美術館 リシュリュウ翼+シュリー翼2e(3階)_f0197072_23403576.jpg
外からの光が強くてななめからの写真になってしまいました...
こういう作品、ご覧になったことがありますか?
私は学生時代の美術の時間に、やたらとしわをよせた布の上のワインのボトルやフランスパン、レモンや本を描かされた記憶があります。
布のやわらかいしわやガラス瓶の光沢、その他のモチーフの質感の違いがなかなか描けなくて、とても苦労しました。
こういう静物画を見ると、やっぱり画家は上手なんだなーと当たり前ながら感心してしまいます。
きっと画家にとって、ガラスの透明感や植物のみずみずしさ、布の柔らかい質感、紙のペラペラした質感なんか、まさに画家の技量を存分に発揮できるモチーフだったんでしょうね。

だからといって、「ホラ、上手だろうー!」と自己満足に浸るためにこういう絵を描いたんじゃないんですよね。
17世紀頃になると、教会や王様だけでなく、お金持ちになった市民も画家に絵を依頼するようになります。
彼らの家は教会や宮殿なんかに比べたらとても小さいので、作品のサイズも小さくなるし、あまり仰々しい宗教画よりはインテリアの邪魔にならないような風景画や静物画が好まれるんです。
オランダをはじめ、17世紀にはガーデニングも流行り、自然に対する関心も高くなってくるのに関係があるのかもしれません。
フランスは他の国から遅れて静物画というジャンルが成立しました。
フランス人の静物画家としては、この『チェス盤のある静物』を描いたリュバン・ボージャンが第一人者と見なされています。
さすがは本場、充実のフランス絵画 パート4 ルーヴル美術館 リシュリュウ翼+シュリー翼2e(3階)_f0197072_23403576.jpg

もう一度じっくり観てみましょう
さて、この絵に描かれているものを見てみましょう。
まず右奥にあるのが八角形の鏡、でも何も映っていません。
手前に半分に折ったチェス盤があって、手前にはトランプ、ベロアのお財布、リュート(弦楽器)、楽譜。
奥にはグラスに注がれたワインとパン。
そして画面中央にカーネーションを挿した水の入った透明の花瓶が描かれています。

材質は木、ベロア、紙、水、植物、パン、ガラスですね。
質感もバッチリ描き分けられています。

こういう静物画はだいたい「五感」が描かれています。
視覚ー鏡
聴覚ーリュート
触覚ーお財布、チェス盤、トランプ
味覚ーパン、ワイン
嗅覚ーカーネーション
こちらも完璧。

そして、静物画なのにちょっと宗教的というか、教訓めいたことが暗に示されているんですよ。
パンとワインはキリストの肉と血を表していますし、
お財布やチェス、トランプは賭け事、つまり享楽や人間の堕落を表します。
ギターは恋の企みに使われますし、花ははかなさの象徴です。
希望を映し出すはずの鏡が真っ暗なので、これもいずれ死を迎えるという示唆です。
全部ひっくるめると、人間の営みには限りがあるんだから、賭け事や恋愛といった快楽にばかりうつつを抜かして堕落せずに、信仰心を持って生きなさいということでしょうか。
さすがは本場、充実のフランス絵画 パート4 ルーヴル美術館 リシュリュウ翼+シュリー翼2e(3階)_f0197072_2340572.jpg

ジャック・リナールのこちらの静物画は何が描かれているでしょうか?
静物画じゃなくてもこういうモチーフはよく出てくるんですが、他には、
本、科学や数学の道具は知のはかなさを、硬貨、宝石、武器、王冠は富や権力のはかなさを、そしてタバコやお酒、楽器やゲームは享楽のはかなさを表します。
骸骨や時計、砂時計、ろうそくの火、花は人生のはかなさを、麦の穂や月桂樹は永遠の生の復活のシンボルだったりします。
静物画でもとりわけヴァニテと細かいジャンル分けをしたりもします。ヴァニテとは「むなしさ」のことです。
さすがは本場、充実のフランス絵画 パート4 ルーヴル美術館 リシュリュウ翼+シュリー翼2e(3階)_f0197072_23412520.jpg

こちらのジョルジュ・ドゥ・ラ・トゥールの『マグダラのマリア』もこの原則が生きています。骸骨=避けられない運命(死) 鏡=人間のはかなさ 炎=使い果たされてしまう時間を象徴。ちなみに彼の有名な『大工の聖ヨセフ』は日本に巡回中です!ルーヴル美術館展は今京都でしょうか?お近くの方、是非観に行ってくださいね
といっても、高校の美術の先生が現代に「人生は無常なので信仰心を!」というメッセージを伝えたくて静物画を描かせる訳がないので(日本ですしね)、静物画はやっぱり絵の技術をはかるのにもってこいのジャンルなのです。
17世紀当時でも、教訓的メッセージはあるものの、モチーフの質感の描き分け、モチーフの配置の妙、色彩やボリューム感など美的価値観によって注文主から依頼が来たりしたのでした。
私たちもこういう作品を見るときに、単純に「うわ〜、本物のベロアみたい!」とか「おいしそうな果物!(よく見ると虫食いがあったりしますが)」とか「昔の人はこういう遊びをしてたんだー」と見たままに感じていいと思います。
でもこういう約束事を思い出すと、また別の視点からも鑑賞ができますよね。

今日は絵解きみたいなお話しになってしまいました。
ではまた来週!


住所   rue de Rivoli 75001(正式な住所はMusée du Louvre。メトロを出たらすぐわかると思います)
メトロ  1番線、7番線 Palais Royal-Musée du Louvre
開館時間 水曜日から月曜日 9時から18時(水曜日と金曜日は22時まで)
チケット 常設展とドラクロワ美術館 9ユーロ (水曜日と金曜日の18時から6ユーロ)
ナポレオンホールの企画展のみ 9.5ユーロ
常設展と企画展 13ユーロ (水曜日と金曜日の18時から11ユーロ)
毎月第1日曜日は入場無料
日本語公式サイト


by paris_musee | 2009-08-17 00:00 | 有名ミュゼ
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